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南国の風に吹かれて

「五條さん、久しぶりです!」

懐かしい名前がスマホの画面に浮かんだ。10年以上も前にフィリピンで知り合った男だ。彼が唐突に連絡してくる理由は一つしかない。

「フィリピンに行くんですが、eTravelの登録ってどうすればいいですか?」

なるほど。まあ、俺も時々フィリピンに行くし、現地の事情はある程度把握している。ここ最近の入国システムは変わっていて、事前にeTravelへの登録が必要になった。簡単に言えば、オンラインで必要な情報を入力してQRコードを取得するだけだ。

「入国の72時間前までに登録しろよ。QRコードをスマホに保存しとけばスムーズに入国できる。プリントアウトもしておけばなお良し。」

「ありがとうございます!それと、乗り換えについても聞きたいんですが……。」

やっぱりな。こいつ、調べてないな。

「セントレアからマニラ、そんでセブか。フィリピン航空なら問題ないだろう。ただ、マニラでの乗り換えはちょっと面倒だぞ。国際線はターミナル1、国内線はターミナル2だから、一回外に出てシャトルバスかタクシーで移動することになる。荷物は一回ピックアップしろよ。帰りはセブからセントレアまでスルーで預けられるはずだから、そこは楽だ。」

「帰りの乗り換え、マニラで7時間あるんですよ。しかも深夜……。」

「それなら、ターミナル3に行け。あそこならレストランも多いし、前にあるカジノで時間つぶせる。マラテやマカティに遊びに行くって手もあるけど、そっちの治安はな……。移動はGRABかタクシーな。ただし、必ずSKYWAYを使え。少し金はかかるが、渋滞なく移動できる。」

「SKYWAYですね。了解しました!」

相変わらず、細かいことは気にしないタイプだな。

「まあ、何をしに行くのかは想像がつくけど、病気と怪我には気をつけろよ。特に、そっちの病気な。最近、置き引きや誘拐の話もある。命だけは落とさないようにな。」

「そんなに危険なんですか?」

「そりゃ日本よりはな。あと、今のフィリピンの物価、舐めたら痛い目見るぞ。チップは最低50ペソ、普通に100ペソが相場だ。ラーメン一杯1000ペソくらいするぞ。結局、ジョリビーやチョウキンの方が安くて安心だ。」

「そんなに上がってるんですね……。」

「覚悟しとけよ。あと、ターミナル間の移動は無料バスもあるけど、深夜は本数が少ない。時間がないならGRABかタクシーを使え。ただし、深夜のタクシーはメーターを使わずに法外な値段を吹っかけてくることもあるから、注意しろ。」

「なるほど……。本当に助かりました!」

俺はスマホを置き、コーヒーを一口すする。

フィリピン。あの国には色んな思い出がある。30歳から15年住んでいた。夢を抱いて飛び込み、いろんなことを学び、そして挫折もした。だが、あの南国の風は、いつも俺の心に吹いている。

「俺も久しぶりに行くかな……。」

コーヒーの香りが、ふと、遠い記憶を呼び覚ました。